甲斐駒の雪だるま

April 19, 2008 | Filed Under Uncategorized 

完璧な形の雪だるま。
というか、体の部分だけ。
頭は見当たらない。
直径1メートル半くらいの体の部分だけがどこかさびしそうに雪の中にある。
あたりを見回しもうちょっと先にある雪だるまにも目を向けた。

イースター島にあるような丸い頭が雪の谷を見つめて、どっしりと座ってる。

高度3000メートルにある体だけの雪だるま。なんかおかしい。

突然首の後ろに鳥肌がたち、髪が逆立つ。反射的に身をよけた。
と、同時に大きな雪だるまが上から転がってきて、下の木にぶつかり細かく砕け散ると、木の枝から大量の雪が落ちてきた。
まるで木が怒っているかのようだ。

わかった。

雪や氷の塊が、春になり暖かくなって溶け、岩から落ち、転がりはじめ、そのまま雪を集めながら大きくなって転げ落ちてくる。
斜面の途中でモアイ像のように止まるのもあれば、目の前にあるものに突進して全てを巻き込んで、砕け散るものもある。

僕は目の前にいた。

今日は帰ったほうがいい。

冬に日本の山に入る、ということは、侵入者になる、ことを意味する。
閉ざされた秘密に立ち入るのだ。

主に安全のためという理由でだが、多くの道はこの時期閉鎖される。
金曜の夜、僕は甲斐駒ケ岳への登山口を探して、封鎖の看板をどかし、落石を避けながら、整備されていないガタガタ道を長い時間さまよった。
レンタカー会社はあまり嬉しくないだろう。そういえば前に車を返しに行ったとき、受付の女の子の顔は真っ青だったっけ。
バンパーには小枝が挟まり、車は泥だらけ。ホイールキャップもなかったかも。
必ず保険は全部カバーされているものをかけることにしている。

ようやく封鎖されていない道を見つけた。戸台へ続く道だった。戸台から甲斐駒の登山道まで軽く10キロ以上ある。
そこで日が昇るまでの数時間寝ることにし、長い道を歩くのに備えた。

早朝の朝日に甲斐駒の頂上がキラキラ光り、山腹はところどころに雪が残り縦縞を描いている。

近づける気がしない。自分がとても小さく感じた。

川沿いのルートは地図では簡単に見えた。だが距離に隠れてて分からなかったが、実はコースに沿って高度が1000メートルも上がっていた。
これは登山口に着くまでのことであり、山自体はここから1000メートルさらに登らなければならない。

昼には北沢小屋に着き、雪を溶かし飲みながら、雪に残ったクマのような足跡について考えていた。
今年は早く冬眠から目覚めたのだろうか・・・。まあ既にこの辺りをうろついているのは明らかだ。

春になってやや溶け始め、重くなった雪と格闘しながらさらに歩いていくと、頭を失った雪だるまの庭が現れた。

登るか、下るか。

下る決断。

もうすでに日が暮れてきたし、この斜面で雪の大玉にぶつかるのもあまりいい考えじゃない。
少なくとも数キロ圏内には誰もいない。
車に戻るにもかなり遠い。
ケガを負うにはあまり適した場所じゃない。

谷を降りる間中、甲斐駒の雪で覆われた山頂は雲がその姿を隠すまで、じっと僕の背中を見ていた。

秘密の一部を僕は見た気がした。

僕がすぐに戻ってくることを甲斐駒は知っている。

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